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先日ありままさんへ贈った画像に合わせて、ありままさんがSSを書いてくださいました!
わーわー!!あのありままさんですよ!
ご縁でお知り合いになることができて本当嬉しいです。
ネット環境があると、本当住んでるトコロは離れてますが、こういった交流ができて本当に
楽しいですよね~。

本文は「つづきから」ごらんください。







 「そらみみ」
 
いつものように、就業時間ぎりぎりに玄田から回ってきた仕事は、期限の近いものばかりだった。
どうしていつも土壇場でしか仕事を回さないのだろう。
堂上は不平を呟くが、誰も聞く者はいない。
ましてや、手伝おうと名乗りを上げるものなど、一人もいない。
それもそのはずで、「忘れてた」と紙の束を堂上の机に置き去りにして去って行った玄田を最後に、事務室には堂上だけが残っていたのである。
しんと静まり返った事務室に、カリカリと堂上のペンの音だけが響く。
適当なところで切り上げたいと思いつつも、それができない性分なのは織り込み済みだ。だからこそ、玄田も堂上に仕事を振るのだろう。
頼りにされていることをうれしく思いつつも、こうしょっちゅうだとさすがに腹が立つ。眉間にしわが深く刻まれたところで、事務室のドアが開いた。
「なんだ、まだいたのか」
緒形がのんびりとした口調で、事務室へと入ってきた。
隊長の代わりに幹部会議に出ていたはずだから、ようやくそちらも終わったのだろう。
お互い損な役回りだと思いつつ「お疲れ様です」と声を掛けた。
緒形は、堂上の机の紙束を全部さらって、自分の机へ持っていく。
「副隊長」
「俺は明日は公休だ、気にするな。隊長の尻拭いは副隊長の俺が受け持つのが道理だろう。お前は明日も早い。ちゃんと休まんと訓練に支障が出るぞ」
そう言われるとその通りだ。
堂上は一枚残ったやりかけの調書を速やかに仕上げて一礼した。
「ありがとうございます。お先に失礼します」
「ん、よく休め」
短く告げられたねぎらいに、もう一度礼をして、堂上は事務室を後にした。
 
12月も終わりに近づいている。
茨城図書館のあれこれも、ようやく一段落がつき、新しい年を迎える準備に入ったようだ。
風よけにコートの襟を立てて外に出ると、吹き付ける風に冷気を感じた。
「もう、食堂も閉まったか・・・」
独り言のように呟く。
頭の中で、カップめんの買い置きが残っていたか確認するが、今いち判断がつかない。
これは、買って帰った方がよさそうだと、通用門へと歩を向ければ、見知った背中が歩いているのが見えた。
自分より背の高い、部下の背中。
知らず、眉間にしわがよる。
時間はそう遅くないとはいえ、冬場は日が落ちるのも早い。
街灯の少ない路地は、この時間でも真っ暗だ。
女がそんな時間に一人で出歩いてどうする。
心の中では心配するも、それを面と向かって言えるような関係ではない。
一人の部下として、戦力として期待している彼女に、そんな心配をしていると知れたら、また侮っていると思われるのが関の山だ。
大方、食後のデザートでも調達しに行くところだろう、声を掛けて一緒に行くべきか。
そう思うが、相手が私服の状態では、声を掛けるのも戸惑われた。
ただの上官の自分が、プライベートな時間まで拘束する権限があるのか。
目の前の背中は、こちらの葛藤など知りもせず、のびやかに歩いていく。
その後ろを、ただ黙ってついていくだけになっているのが歯がゆい。
郁。
心の中で呼んでみた。
年明けには、一緒にカミツレのお茶を飲む約束をしている。
そのあとで、自分たちの関係を変えることができるだろうか。
自分の気持ちを伝えるだけなら易しい。
ただ、それが上官命令に聞こえる可能性が、ないわけでもない。
郁が、不本意ながら断りきれない可能性を、今の自分たちの立ち位置では孕んでいる。
だが、もう負けたと思った。
気持ちに蓋をするのが辛い。
男として、今の自分を見て欲しい、受け入れて欲しい。
わがままな欲は募るばかりで、見つめる瞳にも力が入る。
郁。
苗字ではなく、そう呼べる関係になりたいと願ったら、お前は答えてくれるだろうか。
郁。
不意に、郁が振り返った。
思わず立ち止まってしまい、目が合う。
お互い、驚いたような顔をしていた。
「なんだ、堂上教官だったんですか。今帰りですか?」
屈託のない笑顔を見せて、郁がこちらへと駆け寄ってきた。
「お前は、コンビニか?」
訊くと、はにかんだように笑う。
「えへへ、ちょっとお腹すいちゃって。柴崎もアイス食べたいっていうし」
「太るぞ」
「明日は訓練だから、それで帳尻を合わせます」
軽快に宣言した郁の頭をポンとたたく。
「わかった、手加減なしで相手してやろう」
「え、ちょっ、それはなしで」
慌てて逃げの姿勢に入る郁と並んで、通用門を出た。
「教官は、どちらへお出かけですか?」
話を変えるように訊いてきた郁に、「夕飯の調達だ」と手短に答える。
「えーと、それって、コンビニ?」
「この時間ならそうなるな」
「じゃ、ご一緒しましょう」
にこにことそういう郁に、たぶん他意はない。
こちらが勝手に意味を見つけたいだけだ。
「ん」と小さく頷いて、並んで歩くと、郁が不思議そうな顔をして訊いた。
「教官、さっきあたしを呼びました?」
心の中では、何度も呼んだ。だが声に出していないはずだ。
堂上は「いいや」と告げた。
「誰かに、呼ばれたような気がしたんだけど、空耳かなぁ」
しきりに首をかしげる郁に、たぶんそうだろうと堂上は言うしかなかった。
 
**************
 
郁。
そう呼ばれた気がして振り向いた。
振り向いた先に、いつも考えているその人が立っていた。
なぜか、お互い驚いた顔をしている。
郁。
この人が、あたしをそう呼ぶはずがない。
なぜなら、あたしはただの部下だから。
名前で呼ばれる関係じゃない。
だからこれは、空耳だ。
あたしの願望が聞こえたような気がしただけ。
郁は、そう結論付けて、堂上のもとへと駆け寄る。
ただの部下でも、堂上と一緒にいられるのはうれしい。
部下としてでも、少しでも好意を持っていてくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。
だけど、もしも、部下としてじゃなく、女として好意を持ってくれてるとしたら・・・。
都合のいい考えを、頭の中で払う。
これ以上、何を望むというのだ、あたしは。
取り留めもない会話の途中で、自分を呼んだか聞いてみた。
やはり、あれは空耳のようだ。
郁の、願望が、耳に届けた、空耳。
 
それから、季節は廻り。
郁はもう、空耳を聞かない。
その声は、甘い響きを持って、確かに郁の耳に届く。
 
『郁』と。
 
Fin



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うわ~ん!ありままさん!ありがとうございました~!

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わはー、やっちゃった
この時期、隊長って入院してたっけねぇ、そういえば・・・と、読み返して気が付きました(爆)
メインの話はその先だったけれども、ちゃんと背景にも気を配らないとだめですねぇ。
どうもすみません<(_ _)>
ありまま 2012/04/12(Thu)22:52:50 編集
Re:わはー、やっちゃった
いえいえ~。すんなり読んじゃいましたよ(笑)
全然違和感とか無かったのは、ありままさんの力量ですよね。流石です^^
お返事おそくなっちゃってすみませんでした!
【2012/04/14 20:57】
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